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私のパレット

仕事の打ち合わせでお茶の水まで出掛けた折、次のお客さんとの約束が急にずれ込んでしまい、ぽっかり時間が空いてしまった。特に用事もなく駅周辺をブラブラしていたら、ふと画材屋さんの前を通りかかった。透明水彩の絵具を何色か切らしていたことを思い出し、ちょうどいい機会と思って買って帰った。

私が透明水彩の絵具を買うのは、かれこれ15年ぶりくらいになる。当時私は大学生で、アルバイトをしていた吉祥寺の画材屋さんで数色買い足して以来のことだ。その前となると20年くらい前、高校1年か2年生くらいの時に遡る。この時に買ったNOUVELという国産メーカーの安物の18色セットの透明水彩を、今もずっと使い続けている。水彩画の教書に習い、パレットにあらかじめ絵具を固めておいて、その都度筆に水を含ませて絵具を溶いて使っていると、案外かなり長持ちする。私はあまり大きな絵は描かないし、広い色面を塗る時はガッシュや顔彩を用いる。普段仕事で描く絵はほとんどがA4以下なので、一枚描き上げたところでどれほども減りはしない。そんなわけで同じ絵具、同じパレットと、私はもう20年もつき合ってきたわけだ。

私は画材には結構こだわっている。鉛筆はカステル、筆はラファエロ、ガッシュはペリカンという具合で、求めるものが高価であっても躊躇しない。でも何故だか透明水彩だけは、この安っぽい国産のものを使い続けている。どこかの時点で、もっと発色のいい定評のあるものに切り替えても良かったのだけど、私の絵にはこの絵具の少しくすんだ色合いが合ってるようなのだ。それに20年も親しんできただけに、どの色とどの色を合わせるとこういう色になるとか、このくらいの水の含ませ加減でこのくらいの色の伸びになるという加減が、手と頭に染み付いてしまっている。今更違うものの性格を覚え直すのは、ひどく面倒な気がするし、勇気がいる…。

今日も本当は同じメーカーのものを探したのだけれど、もう扱っていないということなので、仕方なくホルベインの透明水彩を買ってみた。昔はどこの画材屋でも扱っていた商品なのに、どうして最近は見かけなくなったんだろう。もう生産していないんだろうか。だとしたら、とても残念なことだ。近頃は画材の売れ行きがひどく落ち込んでいるらしいので、時代の流れの中では仕方ないことなのかな。

それにしても、絵を描いてお金をもらう立場の人間が、こんなにも久しく絵具を買い足さなかったなんて、あまり大きな声で言えることではないだろう。実際、絵具の減りが少ない描き方とはいえ、いかに作品が少ないかを物語っているようだ。もっともっと絵具を使いまくって、たくさん作品を描き続けないといけないんだろうな。今更ながらにそんなことを反省してみる一方で、自分と絵具達とのつきあい方を、ちょっと愉快に思った。

さて15年ぶりに新しく仲間入りした絵具達。私のパレットに馴染んでくれるだろうか。