2014年4月のエントリー 一覧

旅の6日目。いよいよリトアニアへ向けて出発。ラトビアにいる間はずっと晴天が続いていたのですが、この日は朝から雨模様。空を厚い雲が覆っていました。

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リガの中央バスターミナルの切符売り場。この日の最初の目的地は、リトアニアの「十字架の丘」。リガからカリーニングラード(飛び地になっているロシア領)行きのバスに乗り、シャウレイという町まで行って、そこからバスかタクシーに乗り換えます。

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リガを離れてしばらく走ると、荒涼とした風景が広がっていました。ラトビア郊外の長閑な田園風景とはかなり印象が違って見える。

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シャウレイまでは約3時間の道程。この時に乗ったバスは古びた車両で、ガタゴトとよく揺れました。椅子のクッションは固いし、変な匂いがこもっているし、ゆっくり寝ることもできません。タリン〜リガ間で乗った快適なバスとは雲泥の差...。

途中の休憩所に飾ってあったレリーフ作品が、リトアニアらしくってとても素敵でした。装飾部分に見られる美意識が、西欧圏のものとは明らかに違っていて面白い。

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そういえば、このバスの車中で面白い出来事がありました。車窓から写真を撮っていたら、斜め後ろの席にいたガタイのいいおじさんが突然立ち上がって、「こっちに来い」と手招きするのです。「何???」と思いながらも言われるがまま隣りへ行くと、私の腕をがっちりと抱え込んで逃げられない状況に......。そして私のカメラを指差しながら、熱のこもった声で何かを話し始めました。リトアニア語なのかロシア語なのか、言ってることはまったく理解できません。

何か気に障ることことをしてしまったんだろうか??・・・不安になって周りを見回すと、乗客たちはこちらの様子を見て微笑んでいる...(^^;)。とりあえず、やばい状況ではないらしい。あらためて彼の言葉に耳を傾けていたら、なんとなく言いたいことがわかってきたから不思議。。。どうやら「こっち側の窓から写真を撮れ」ということらしい。「わかった」と私も日本語で応じました。「ここから撮ればいいの?」「違う!もうちょっと行った所」「この辺?」「よし、ここだ!」と彼が叫んだタイミングでシャッターを押したのがこの写真。。

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う〜む・・・さっぱり意味が分かりませんね・・・(^^;)。

でもこの写真をカメラのプレビュー画面で確認したら、彼は満足げな笑顔で握手してくれて、ようやく私のことを解放してくれました。周りの乗客たちも、みな笑顔でした。

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そんなことがありつつも、無事にシャウレイのバスターミナルに到着。そこからタクシーに乗って15分ほどで「十字架の丘」の入口に着きました。何もない広大な平原の中に、一本道が伸びています。そして、遠くに十字架のシルエットが。。

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どんよりとした空の下、緑の平地の真ん中に、こんもりと浮き上がってくる十字架の丘。近づくにつれ、丘に突き刺さる無数の十字架の姿が見えてきました。写真では何度も見ていても実際に目の当たりにすると、その異様な光景に言葉を失います...。

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「十字架の丘」は、リトアニアの聖地。なぜここに十字架が立てられるようになったかは定かでないのですが、1831年のロシアに対する11月蜂起の後、その時処刑や流刑された人々のために立てられたのが始まりと言われています。以後は、抑圧者に対する抵抗の証しとして、そして、リトアニア人として民族アイデンティティーの象徴として、「十字架の丘」は特別な意味を持つようになったのです。ソ連に支配された時代には、当局はここをどうにかして排除しようとして、ブルドーザーで撤去しようしたり焼き払ったりしたのだけど、夜のうちにまた誰かがここに十字架を立てて行ったのだそうです。

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それにしても、なんと凄まじい数の十字架・・・。小高い丘の向こう側にもびっしりと、大小さまざまな十字架やロザリオが埋め尽くしていました。信仰心というよりも、心の「叫び」のようなものを感じます。

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十字架の造形に様々なスタイルのものがあって興味深い。リトアニアは国民の8割がカトリックの国。でもカトリックを受け入れたのは、14世紀末、悪名高いドイツ騎士団の侵攻に対向するためポーランド=リトアニアの連合国を締結したのが契機でした。それ以前は自然崇拝・多神教の信仰を持つ部族が主流で、異なる宗教が共存していたのです。キリスト教国になった後も、民衆の間ではアニミズムの世界観が根強く残ったのではないかと想像します。

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世界中から多くの人がここへ巡礼に訪れています。そして十字架の数は今も増え続けています。このバリエーション豊かな十字架には、多様な価値観を希求する意志と、少数者が抑圧されることのない平和な世界への願いが込められているように、私は感じました。

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さて、バスの車中での出来事ですが、十字架の丘に行ったあとで、ようやく彼が何をしたかったのかが理解できました。先程の写真を拡大してみたら、そこに写っていたのはなんと「十字架の丘」だったのです。彼は「十字架の丘がこの先に見えるんだよ、写真を撮るならこっちから撮っておきなさい」と親切に教えてくれていたのでした。遠い国から「十字架の丘」を見に来てくれた客人に、無骨な形で歓迎の意を示してくれたのだと思います。そんな出来事にも、「十字架の丘」が彼らにとってどれだけ大事なものかが伝わってきました。

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丘の入口にある土産売り場で出会ったかわいい猫。またおいでよ、と見送ってくれました。。〈続〉

ラトビアへ行ったら、外せない見所のひとつが「ユーゲントシュティール建築群」。バウスカからリガ市内に戻って、一息ついた頃はもう夕刻。新市街へと急ぎました。

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ユーゲントシュティール建築群がある場所は、新市街の北東側のエリア。アルベルタ通りとエリザベス通に集中しています。中央バスターミナルから旧市街を抜けてここまで歩くと、結構大変。地図で見るより実際は遠いので、最初からトラムを使う方が無難だと思います。

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リガは、ユーゲントシュティール建築の宝庫。「ユーゲントシュティール」とは、仏語の「アール・ヌーヴォー」に対応するドイツ語で、世紀末に展開された美術運動の総称です。動植物や女性のシルエットなどをモチーフとし、優美で複雑な曲線の装飾が特徴的。19世紀末から20世紀初頭、ロシア統治下に置かれたリガは、モスクワ、サンクトペテルブルクに続く大都市へと成長していました。リガ市内では建築ラッシュとなり、当時の最先端の建築スタイルとしてユーゲントシュティールの建築が数多く生み出されたのです。

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街を歩いていると、あちこちにユーゲントシュティールの装飾を見つけることができるのですが、その中でも傑出してるのがミハイル・エイゼンシュテインが手掛けた建物。ミハイル・エイゼンシュテインは、映画監督の巨匠セルゲイ・エイゼンシュタインのお父さん。周りの建物の中で、彼が手掛けたものは抜きん出た存在感を放っています。

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複雑な曲線で構成された装飾と、大胆に配置された直線とのコントラストが素晴しい。赤や青の色面も効果的に配置されていて、見る人に強い印象を与えます。この重厚な美しさに、ただただ感嘆してしまいます。。

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これはエイゼンシュタインの作品ではないのですが、外観がとてもユニーク。ラトビア人建築家が建てたもので、現在は「アール・ヌーヴォー博物館」となっています。遅い時間になってしまったので中に入れなかったのですが、この建物内の螺旋階段が非常に美しくて有名。

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柱の部分に大きく配置された顔や、女性をモチーフにした飾りがとてもユニーク。

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夢中になって写真を撮っていたら、いつの間にか周りは真っ暗。もっと早い時間に見に来れば良かったと激しく後悔・・・。でもこの素晴しい建築群を見ることができて、本当に良かった。この素晴しい建築群が戦争で破壊されずに、良い状態で今日まで残っていることは奇跡でしょう。リガに行かれた方は必ず見に行った方がいいと思います。

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そうそう、ラトビアではふたつのとても素敵な出会いがありました。
ユーゲントシュティール建築群を見た帰り、旧市街に戻る途中で「あの、もしかして日本人ですか?」と話しかけてくれた青年がいました。とても流暢な日本語でびっくりしたのですが、彼はラトビア大学に留学中のウズベキスタン人。ウズベキスタンでも日本語をずっと勉強していたそうで、トラムの中で私たちが話している日本語を聞いて、思いきって声をかけてくれたのでした。とても目のきれいな、ハンサムな青年。誠実で優しい性格がひと目で伝わってきました。

彼は日本語で会話できることをとても喜んでくれて、せっかくの機会だからと夕飯をご一緒することに。食事しながら、日本の文化を好きになったきっかけや、故国ウズベキスタンのことなどを、いろいろ聞かせていただいたり。彼のおかげでウズベキスタンという国のことが身近に感じられるようになりました。近い将来、必ずウズベキスタンへ行ってみたい。

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そしてもうひとつの出会いは、リガ在住の日本人の素敵なご夫婦。その方とは、たまたまTwitterで知り合っただけだったのですが、私がリガに到着したことをつぶやいたら、「良かったら食事ご一緒しませんか?」と声をかけてくださったのです!まったく面識がなかったにもかかわらず、そんな風にあたたかく接してくださって、いたく感動したのでした。

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そして、お二人が案内してくださったのがこの「RozenGrāls」という店。ヨーロッパ中世風料理や、ラトビアの郷土料理を楽しむことができる人気のレストラン。この建物は13世紀に建てられたものなのだそうです。お店の外観も店内も、隅々まで中世風な演出が施されています。薄暗い空間にロウソクが灯してあって、とてもロマンチックな雰囲気。

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お二人にセレクトしていただいたのが、この兎の料理。兎を食べるのははじめてでしたが、旨味がしっかりある鶏肉のような感じ。濃厚なソースとの相性抜群で、すごく美味しい♪ 雰囲気だけではなく、どの料理もレベルが高かったです。そして、ラトビアの地ビールが豊富に揃っていて素晴しかった。

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忘れられないのが、麻布に包まれて出てきた素朴な造りのパン。見た目は無骨だけど、パン生地の風味が香ばしく、味わい深いパンでした。

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ラトビアでの暮らしぶりや日本との違いのことなど、楽しい話題に盛り上がっていたら、突然、古楽器を使ったライブ演奏が始まってびっくり。古楽の美しい音色にうっとりしながら聞いていると、ますますビールの杯が進むのでした。。〈続〉

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夜のリガ旧市街の街並は、いっそうロマンティックな雰囲気に包まれます。ラトビアではそんな素敵な出会いがあったおかげで、特別に楽しいひとときを過ごすことができました。今も忘れられない思い出。いつかまた彼らと再会してみたいな。〈続〉

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バスターミナルのすぐ隣りには、リガの活気ある中央市場があります。この古い駅舎のような大きな建物が中央市場。写真に写ってる3棟と、向こう側にもう1棟あって、その全部が市場になっているのです。なんと巨大な市場なんでしょう。

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市場には様々な商品が溢れ、大勢の買い物客で賑わっていました。バルト三国へ行く前に漠然と抱いていたイメージとはまったく違って、どの国も物資は非常に豊か。街には活気があります。かつて旧ソ連に支配された過酷な時代から見事に脱却し、近年は国の経済が急成長しているのでしょう。市場の賑わいと人々の快活な表情を見ていると、バルトの国々の明るい未来を感じます。

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商品の品目によって、建物とエリアが分かれています。屋外エリアにもたくさんのお店が出ていますが、建物の屋内にも無数の店舗がひしめき合っていました。すべての売り場をひとつひとつ足を止めて見ていたらキリがありません。。。

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そしてとても印象に残ったのが、鮮魚のエリアがとても充実していたこと。海に面した国々なので魚介類が豊富なのは当然だと思うですが、日本の市場のように生魚がたくさん並んでいる光景は、ちょっと不思議な感じがしました。

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とはいえ、やはり魚はあらかじめ加工された状態で売買されることが多いようです。たくさんの種類の薫製があって、元の魚の種類が想像できないものもありました。長細い形の魚の薫製が、まるでフランスパンのように立てて並べてある光景が面白かった。

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途中で見かけた惣菜類。なんだかよくわからないけど、みんな美味しそう。

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色鮮やかすぎる野菜たち。はじめて見るものもいろいろ。

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市場には食べ物だけでなく、日用品も扱っています。こんな面白いディスプレイ(?)も見かけました。ストッキングをこうして見せれば、確かにわかりやすいですよね。。 あと、女性ものの巨大なパンツとかも見かけました。ロシアンサイズかな??

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私にとっては、はじめて見る海外の市場の風景に、興奮せずにはいられません。。。あっちへこっちへと、カメラを持って一人で走り回ってしまいました。市場は、その国の台所を映す鏡。そして、その土地の人たちの暮しぶりを肌で感じることができる場でもあります。そういう場所を見て回るのはたまらなく楽しい体験。

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ちなみに、リガでの私たちの宿は「Central Hostel(http://www.centralhostel.lv/)」。 3人部屋で、1人1泊=約1000円という安さ。エレベーターはなく、私たちの部屋はかなり急な階段を上がった4階。重たい荷物を引きずっていくのは大変でしたが、安さで選んだ宿なので贅沢なことは言えません。。部屋も館内もきれいでしたし、フロントの方の対応もフレンドリーで、素泊まりの宿としては不自由に感じることはなかったです。「とにかく安いことが第1条件!」という方にはおすすめしたい宿でしたよ。

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宿のあった場所は、中央バスターミナルから東側に15分くらい歩いたところ。街の中心街とは違って、宿の周りは古びた感じの建物が多く、ちょっとくたびれた雰囲気。夜になると街灯が少なくて、ますます怪しい感じ・・・。でも危ない感じはまったくなくて、ローカルな空気感がとても心地よかったです。

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宿の近くにあった場末な雰囲気の飲み屋に立ち寄ってみました。ラトビアでもサッカーが大人気。テレビの中継に夢中になってる若い人たちが、大きな歓声を上げていました。〈続〉

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